インプラント、オールオン4、6の時に使用する感染予防のための抗生物質(化膿止め)について
2025年06月03日 [インプラント]
インプラント、オールオン4、6の時に使用する感染予防のための抗生物質(化膿止め)について
はじめに
練馬区大泉学園のエールデンタルクリニックです。インプラント治療やオールオン4・オールオン6の手術をお考えの患者さんから、「抗生物質(化膿止め)は必要ですか?」「どのような薬を使うのですか?」というご質問をよくいただきます。
インプラント手術は外科的処置を伴うため、適切な感染予防対策が治療成功の鍵となります。今回は、最新のガイドラインに基づいて、インプラント・オールオン4・オールオン6治療における抗生物質の適正使用について詳しくご説明いたします。
予防的抗生物質投与の基本的な考え方
抗生物質の本来の役割
抗生物質は本来、すでに成立している感染症の「治療」に使用する薬剤です。歯科では従来、抜歯などの処置後に予防的に処方されてきましたが、これは必ずしも適切な使用法ではありません。
例外的に予防投与が推奨される場面
歯科医院で抗生物質を例外的に「予防」目的で使用するのは、以下の2つの場面に限られます:
- 手術部位感染(SSI:Surgical Site Infection)の予防
- 感染性心内膜炎(IE:Infectious Endocarditis)の予防
インプラント治療における感染予防の重要性
インプラント治療とは
インプラント治療は、失われた歯の代わりにチタン製の人工歯根を顎骨に埋入する外科的処置です。オールオン4・オールオン6は、最小限のインプラント本数(4~6本)で全顎の歯を支える革新的な治療法です。
なぜ感染予防が重要なのか
インプラント手術は以下の特徴があります:
- 顎骨への外科的侵襲を伴う
- 人工材料(チタンインプラント)を体内に留置する
- 治癒期間が数ヶ月に及ぶ
- 感染が起きるとインプラントの除去が必要になる場合がある
これらの理由から、適切な感染予防対策が極めて重要です。
手術部位感染(SSI)の高リスク因子
全身的リスク因子
以下の条件に該当する患者さんでは、SSIのリスクが高くなるため予防的抗生物質投与が推奨されます:
重度の全身性疾患(米国麻酔学会術前状態分類ASA-PS≧Ⅲ)
- コントロール不良の糖尿病
- コントロール不良の高血圧
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
- 高度肥満(BMI≧40)
- 活動性肝炎、アルコール依存
- ペースメーカー装着患者
- 中程度以上の心機能低下
- 定期透析を受けている末期腎不全
その他のリスク因子
- 肥満(BMI≧25)
- ステロイド・免疫抑制剤の使用
- 術野への術前放射線照射歴
局所的リスク因子
- 口腔内の衛生状態不良
- 歯周病の既往
- 喫煙習慣
- 既存の感染巣の存在
感染性心内膜炎(IE)の高リスク因子
予防が必須な患者
以下の心疾患をお持ちの患者さんには、インプラント手術前の抗生物質予防投与が強く推奨されます:
- 人工弁置換患者
- 感染性心内膜炎の既往がある患者
- 複雑性チアノーゼ性先天性心疾患(単心室、完全大血管転位、ファロー四徴症)
- 体循環系と肺循環系の短絡造設術(シャント)患者
予防が推奨される患者
- ほとんどの先天性心疾患(単独の心房中隔欠損症(二次孔型)を除く)
- 後天性弁膜症(逆流を伴わない僧帽弁狭窄症ではリスクは低い)
推奨される抗生物質と投与方法
第一選択薬:アモキシシリン(AMPC)
商品名:サワシリン®、パセトシン®、アモリン®、ワイドシリン®
理由:口腔内の常在菌(口腔内嫌気性菌、連鎖球菌)に対して優れた効果を示すため
投与量・投与タイミング:
- 一般的なインプラント手術:手術1時間前に経口で250mg~1,000mg を1回服用
- 感染性心内膜炎高リスク患者:手術1時間前に経口で2,000mg を1回服用
代替薬:クリンダマイシン(CLDM)
商品名:ダラシン®
適応:ペニシリンアレルギーなど、βラクタム系抗菌薬にアレルギーがある患者
投与量:手術1時間前に経口で150mg~600mg を1回服用
治療法別の抗生物質使用指針
インプラント埋入手術
単純なインプラント埋入(1~数本)
- SSIリスク因子なし:予防的抗生物質投与は原則不要
- SSIリスク因子あり:AMPC 250mg~1,000mg を術前1時間前に単回投与
複雑なインプラント手術(骨造成を伴う場合)
- AMPC 250mg~1,000mg を術前1時間前に投与
- 必要に応じて術後24~48時間まで継続
オールオン4・オールオン6手術
オールオン4・オールオン6は大がかりな外科処置となるため、多くの場合で予防的抗生物質投与が推奨されます:
標準的な投与方法
- AMPC 500mg~1,000mg を術前1時間前に投与
- 手術時間が長時間(3時間以上)に及ぶ場合は、術中に追加投与を検討
- 術後24~48時間は継続投与することが多い
高リスク患者の場合
- より積極的な抗生物質投与を検討
- 場合によっては注射薬(点滴)による投与も検討
投与タイミングの重要性
なぜ術前投与が重要なのか
SSIの原因は「術中の細菌汚染」と考えられているため、手術開始時には十分な血中濃度・組織中濃度が必要です。
最適な投与タイミング:手術開始1時間前以内
術後投与について:
- 現在のガイドラインでは、術後数時間まで適切な血中濃度が維持されれば、追加の抗生物質投与は必要ないとされています
- ただし、大がかりな手術や高リスク患者では術後継続投与を検討
オールオン4・オールオン6における特別な考慮事項
手術の特徴
オールオン4・オールオン6は以下の特徴があります:
- 即日固定式仮歯装着:手術当日に仮歯を装着
- 複数部位への同時処置:4~6本のインプラントを同時埋入
- 手術時間の延長:通常2~4時間の手術時間
- 抜歯同時施行:残存歯の抜歯を同時に行うことが多い
感染リスク管理
これらの特徴により、一般的なインプラント手術と比較して感染リスクが高くなる可能性があります。そのため、以下の点に注意が必要です:
- より積極的な予防的抗生物質投与
- 術後の厳格な口腔ケア指導
- 定期的な経過観察
- 早期の異常発見と対応
抗生物質使用時の注意点
アレルギーの確認
治療前には必ず薬物アレルギーの既往を確認します。特に以下の点について詳しくお聞きします:
- ペニシリン系抗生物質のアレルギー歴
- 過去の薬物アレルギーの症状
- 現在服用中の薬剤との相互作用
副作用への対応
抗生物質の一般的な副作用:
- 消化器症状(下痢、腹痛、吐き気)
- アレルギー反応(発疹、かゆみ)
- 稀に重篤なアレルギー反応(アナフィラキシー)
副作用が現れた場合は、直ちに服用を中止し、当院までご連絡ください。
薬剤耐性菌対策
抗生物質の不適切な使用は薬剤耐性菌の発生につながります。当院では以下の点に配慮しています:
- 必要な場合のみの処方
- 適切な薬剤選択
- 正しい投与量・投与期間の設定
- 患者さんへの服薬指導の徹底
術後の感染予防対策
口腔ケアの重要性
抗生物質投与だけでなく、適切な口腔ケアが感染予防には欠かせません:
術直後のケア
- 手術部位への過度な刺激を避ける
- 処方されたうがい薬の使用
- 柔らかい食事の摂取
術後1週間のケア
- 手術部位以外の丁寧な歯磨き
- 禁煙・禁酒の徹底
- 処方薬の確実な服用
長期的なケア
- 定期的なメンテナンス受診
- 専用器具を使った清掃
- インプラント周囲炎の予防
生活上の注意点
- 禁煙:喫煙は感染リスクを大幅に増加させます
- 十分な休息:手術後は無理をせず、十分な休息を取ってください
- 栄養管理:バランスの良い食事で免疫力を維持
- 水分補給:適切な水分補給で口腔の自浄作用を促進
当院での取り組み
個別リスク評価
エールデンタルクリニックでは、患者さん一人ひとりのリスク評価を行い、最適な抗生物質投与計画を立案しています:
- 詳細な医療面接:既往歴、アレルギー歴の確認
- 口腔内検査:感染源の有無、口腔衛生状態の評価
- 画像診断:CT撮影による骨質・骨量の評価
- 血液検査:必要に応じて術前検査を実施依頼
最新ガイドラインの遵守
当院では以下のガイドラインに基づいた治療を行っています:
- 日本化学療法学会・日本外科感染症学会「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン」
- 日本感染症学会・日本化学療法学会「JAID/JSC感染症治療ガイド」
- 感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン
安全性への配慮
- 術前の十分な説明:リスクと対策について詳しくご説明
- 緊急時の対応体制:アレルギー反応などの緊急事態への準備
- 術後フォロー:定期的な経過観察と早期対応
よくあるご質問
Q: 抗生物質を飲むと必ず副作用が出ますか?
A: 大部分の患者さんでは重篤な副作用は起こりません。軽度の消化器症状が最も多く、適切な服用方法により軽減できます。
Q: アレルギーがある場合はインプラント治療を受けられませんか?
A: ペニシリンアレルギーがある場合でも、代替薬(クリンダマイシンなど)を使用することで安全に治療を受けていただけます。
Q: 抗生物質を飲み忘れた場合はどうすればよいですか?
A: 手術前の服薬を忘れた場合は、手術延期も含めて検討する場合があります。術後の服薬を忘れた場合は、気づいた時点で服用し、次回からは定時に服用してください。
Q: オールオン4・6の場合、通常のインプラントより多くの抗生物質が必要ですか?
A: 手術の規模が大きいため、より積極的な抗生物質投与を行うことが多いですが、個々の患者さんのリスクに応じて調整します。
まとめ
インプラント・オールオン4・オールオン6治療における抗生物質の使用は、適切な感染予防対策の重要な一部です。しかし、すべての患者さんに一律に必要というわけではなく、個々のリスク評価に基づいた適正使用が大切です。
練馬区大泉学園のエールデンタルクリニックでは、最新のガイドラインに基づき、患者さんの安全を最優先に考えた治療を提供しています。インプラント治療やオールオン4・オールオン6治療をお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。
治療前の詳細な検査とリスク評価を行い、患者さんに最適な治療計画をご提案いたします。抗生物質の使用についても、必要性や服用方法について丁寧にご説明し、安心して治療を受けていただけるよう努めています。
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